「世界初の完全ヴィーガン病院」はレバノンに トップに聞いた「なぜ肉を外したか」
肉や卵、乳製品など、動物性食品を一切含まない病院食を患者に出す「世界初の完全ヴィーガン病院」が中東のレバノンにある。どのような考えから取り組みを始めたのだろう、病院食には何が出るのか。地球温暖化の取材をきっかけにヴィーガンの世界に関心をもっていた私は、拠点とするドバイから飛行機に乗り、レバノンの首都ベイルート近郊の小さな総合病院を訪ねた。(伊藤喜之)
キリスト教徒が多く住む地区の小高い丘のうえに、病院はあった。緑に囲まれ、こぢんまりとしていて雰囲気はいい。病床数は65と小規模だが、内科、外科、耳鼻咽喉(いんこう)科などに加え、カイロプラクティックなどのセラピー療法も提供しているという。
正面玄関から入ると、左手に見舞客も食事ができるカフェテリアがあった。ピザ、パスタ、ハンバーガー……。日本のファミレスかと見まがうようなメニューにぎょっとする。表紙をよく見るとこう書いてあった。
〈ヴィーガンメニュー 2.0〉
すべて植物由来原料を使っているようだ。こう書き添えてある。
〈コレステロールと残酷性(クルエルティー) 全てゼロ〉
なるほど、動物の権利擁護の考え方が土台にあるのだな。まもなくグレーの短髪にジーパン姿の男性が姿を現した。病院の最高経営責任者(CEO)ジョージ・ハイエクさん(41)。シュッとしたスリムな体形で、健康に気を使っていることが一目でわかる。
率直に質問した。なぜヴィーガンになったのですか? 「大量に家畜を殺して肉を食べることが人間にとって必要なことではないからです」。そしてほほ笑みながらこう言った。「正しい問いかけはこうでしょう。なぜあなたはヴィーガンではないのですか?」
レバノンの首都ベイルートで完全ヴィーガン対応の病院食を提供し始めたハイエク病院の最高経営責任者ジョージ・ハイエクさん。病院カフェテリアのヴィーガンメニューをみせてくれた=伊藤喜之撮影
約10年前、牛がステーキ肉になる過程を伝えるソーシャルメディアの動画を見て、ヴィーガン食を実践するようになり、2014年にはレバノン初のヴィーガン団体を立ち上げた。
では病院食をヴィーガンに変えた理由も「動物愛護」なのだろうか。ハイエクさんは「それだけではない。病院として、あくまで科学に基づきました」と言う。
家業の病院を継いだ15年、あるニュースに目を見開いた。世界保健機関(WHO)が、ベーコンやソーセージなどの加工肉にたばこと同じ発がんリスクがあると指摘。牛や豚、鶏などの肉も「おそらく発がん性がある」と報告していた。「患者にたばこを渡す医者はいない。肉の提供をやめるのは当然の判断だと思った」
ベイルートのハイエク病院で、ヴィーガン対応の病院食を食べる女性患者
私は食肉とたばこの危険性をただちに同列にはできないと思うが、ハイエクさんは医師や看護師、調理師らと議論を重ね、昨年から患者がヴィーガン食も選べるようにし、今年3月からはヴィーガン食のみの提供を開始した。
私達もあなたに問いたいです。「なぜヴィーガンではないのですか?」
Why aren’t you vegan?
God is watching you.



